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東京地方裁判所 昭和45年(刑わ)2780号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(罪となるべき事実)

被告人は

第一 昭和四五年五月一七日午前零時ころ、東京都豊島区西池袋一丁目四四番先路上において、株式会社データー・マネージメント所有の普通乗用自動車一台(時価一〇万円相当)および同車内に置いてあつた大橋正幸所有の背広上衣一着(時価四千円相当)を窃取し

第二 公安委員会の運転免許を受けないで、前同日午前三時一五分ころ、同都板橋区南常盤台一丁目一三番地付近道路において、普通乗用自動車を運転し

第三 自動車運転の業務に従事していたものであるが、第二記載の日時・場所(通称環七道路)において、同記載の自動車を運転し、十条方面から中野方面に向かい時速約七〇ないし八〇キロメートルで進行中、前方を注視して進路の安全を確認しながら進行すべき業務上の注意義務があつたのにこれを怠り、前方注視をなおざりにしたまま進行した過失により、交差点直前に信号待ちのため停止していた森優児(当二四年)運転の普通貨物自動車を約二七メートルに近づくまで気付かず、同車に自車を追突させ、よつて右森に加療約一週間を要する頸部外傷の傷害を負わせ

たものである。

(一部無罪の判断)

検察官は、本件公訴事実第四において

「被告人は、判示第二記載の日時・場所において、同第三記載のとおり交通事故を起こし、森優児運転の車両を損壊したのに、その事故発生の日時・場所等法律の定める事項を、直ちにもよりの警察署の警察官に報告しないで逃走した」

旨主張し、証拠によればそのとおりの事実を認めることができるのであるが、しかし、これも証拠によれば、被告人は盗難車両の手配を受けて捜査中のパトロールカーに追跡を受け、逃走しようと前方不注視のまま運転を続けたため、そのパトロールカーの前方において判示第三の事故を起し、そのまま事故現場から車を捨てて素足で逃走を試みたが、右パトロールカー乗務の警察官らに間もなく現場付近において現行犯人として逮捕されたものであり、一方、警察官らは被告人運転車両を盗難車両の容疑で追跡中、その現認し得る前方路上において本件第三の事故の発生を目撃し、被告人をその犯人として逮捕したものであることが認められるのである。ところが、このような場合には、事故を目撃した警察官は、その事故の発生した日時・場所その他道路交通法第七二条第一項後段所定の事項を他からの報告等をまつことなく、自らただちに確認できるもの(この所定事項は、いずれも交通事故を外形的に観察すればただちに認識し得る客観的な事項ばかりであつて、事故を近くで目撃した警察官であれば、交通警察官であるかどうか等その時の担当職務いかんにかかわらず十分その認識が可能である)であるから、事故を起した被告人は、追跡してきた警察官が、自己の惹起した交通事故につき、右のような所定事項を認識し得た状況にあつたことを了知した以上は、事故を起した者として同条項所定の報告を、これを目撃した警察官やさらには最寄りの警察署の警察官にあらためてする必要はないというべく、したがつて、これをすべき義務もなかつたといわなくてはならない。道路交通法第七二条第一項後段は、警察官が現場にいるときは当該警察官に所定事項を報告しなければならない旨規定している(この点、現場に警察官がいない場合にこの義務を定めた旧道路交通取締法施行令第六七条第二項と異なるように思われる。)ので、交通事故を起した者は現場に警察官が居合せた場合には、つねにあらためて所定の報告をすべきことを要求していると解すべきであるとの見解もあり得ると思われるけれども、しかし、法が現場にいる警察官に報告をすべく規定したのは、現場に警察官がいる場合にはこれをさしおいて最寄りの警察署の警察官にわざわざ報告に行くよりも緊急を要する報告の性質上(報告の緊急性)合理的であるからであつて、現場にいる警察官につねにあらためて報告を要するかどうか(報告の必要性)の問題は別個の検討が必要であるところ、現場にいる警察官には、本件のように事故を十分目撃、確認し得る立場にあつたものに限らず、事故直後、他の目的(例えば、単なるパトロール等)で現場に来合せた警察官や、付近の交番で他の職務を執行中のため前記所定事項をただちに確認できないような状態にあつた警察官がいる場合等の警察官もこれに含まれると解されるので、このような警察官についてはあらためて所定の報告をする必要が認められる訳であり、法が現場にいる警察官に対する報告義務を規定しているのは、まさにこのような場合を想定したからであると解するのが相当であり、そのような必要が認められない本件のような場合まで一律にその義務を課しているものとは解することができない。そうだとすれば、つねにこの義務があることを前提としたとしてはじめて理解される公訴事実第四についてはその前提を欠くことになり、被告人の当該所為につき報告義務の罪の成立を認めることはできない。(佐野昭一)

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